最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)797号 判決 1969年11月13日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人前田外茂雄の上告理由一、について。
本件のように、家屋の一部に対する転貸行為について、いまだ賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があつて、賃貸人が民法六一二条により賃貸借を解除することが許されない場合においては、賃貸人は、転借人に対してもその転借につき承諾のないことを主張し、賃貸家屋の所有権に基づいてその明渡を求めることができず、また、その結果として、転借人は賃貸人の承諾があつたと同様に転借をもつて賃貸人に対抗することができるものと解すべきことは、当裁判所の判例(昭和三二年(オ)第一〇八七号、同三六年四月二八日第二小法廷判決、民集一五巻四号一二一一頁、昭和三九年(オ)第二五号、同年六月三〇日第三小法廷判決、民集一八巻五号九九一頁)とするところである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同二、について。
原判決挙示の証拠関係に照らせば、甲第二号証の記載をもつて所論のように解さなかつた原審の認定、判断に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用できない。
同三、および四、について。
原判決は所論のような事実を認定することによつて、被上告人長谷川が被上告人新実に本件家屋の一部の転貸を継続した行為がいまだ賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊する程度のものと認めえないとする資料としたものであつて、上告人が被上告人らに対し本件家屋の転貸を終局的に承諾したことを認定したものでないことは、判文上明らかである。それ故、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)